2009/09/27

半男

疲れが溜まっているのか
視界の端に男の顔が半分だけ見えることがある

えっ?と思って改めてそこへ視線を送ると
姿はもうない

僕が最初にそれを見かけたのは夕方だった
何げなく窓の外に目をやると
視界の端にそれを捉えた
けれどもそれはすぐに消えた
屋根の向こう側に顔があって
こちらを覗いていたのだろうと思った

次に見かけたのは階段だった
階段を下っていくと踊り場の陰から顔が覗いているように見えた
今度ははっきりと顔のつくりが見えたような気がした
目は両方とも端に寄っているように見えた
不気味に思いながら踊り場まで下りていくと姿は無かった
ただの気のせいだったのだと思った

そういうことが度々続いた
そこには本当に人がいたのかもしれないし
目の錯覚だったのかもしれない
けれども不思議なことに僕の視界に入るその顔はいつも同じような顔をしていた
その顔は僕の記憶の中にある顔できっと何か印象的なものとして残っていて
疲れていると無意識の内に思い出されるのではないかと僕は想像した
そう思うことで僕はそれから別段気にしなくなった
そう頻繁なできことでもなかったし

そして日が経ち
先週のこと
僕は普段からコンタクトレンズをしているけれど
走ったり飛び跳ねたり激しい運動をすると徐々に頭痛がしてくる
その日も遊んだりしていて午後から頭痛がしていた
我慢できないほどのものではなかったのでいつものようにほっておいたけれど
夕方くらいには歩くだけでがんがんと振動が頭に響いて痛んだ
そう夕方のこと
最初にあの顔を見た場所で
僕は再びあの顔を見た
その顔は屋根の向こう側から覗いていたのではなく
屋根の上にあった
つまりそれは誰かが覗いていたのではなく
顔の半分だけが全てであるということを示していた
そうでなければ誰かが屋根を貫通して顔を半分だけ突き出しているということになるけれど
それは考えられなかった
その時僕はしっかりとその顔を見た
その顔は確かに実在していて消えることはなかった
やはり目は両端に寄っていた
そのどこを見ているのか分からない目を見て
死んでいるのではないかと思った
(顔が半分しかないのだから既に死んでいるに違いないのだが
どうしてか目を見るまでは死んでいるとは全く思わなかった)

その時の僕は驚く程冷静で慌てることもなく
まだ自分の見間違いなのかもしれないと思っていた
僕は同じ階にいた同僚を呼んできて
外を見て欲しいと伝えた

同僚が窓の外を覗くと
「忙しいから何もなければ戻るよ」
と言ってすぐに戻ってしまった

何で?と思って僕が外を見ると
半分だけの顔は跡形も無く消え去っていた

気味の悪い話だと思って僕は
屋根をしばらく見つめていたけれど
やはり頭痛のせいだったかもしれないと思うことにした

僕はその顔のことを半分だけしかないから
大分前に「半男」と名付けていた

今日記を書いていて
よく考えると半分だけの顔だから
「半顔」の方が正しかったかなと思った

つづく・・・

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